皆様の事業の目的は何でしょうか?
様々な目的があると思いますが、共通するのは「利益を追求すること」、すなわち「お金を増やすこと」ではないでしょうか。だからこそ、「節税」という言葉は非常に魅力的に響きます。
しかし、中身のない節税は、時に事業者様を破滅へ導く「甘い罠」となります。「食べながら楽に痩せられるダイエット」や「元本保証で高利回りの投資」と同じです。心地よい言葉の裏には、必ず恐ろしい代償が潜んでいます。
「税金を減らすために、お金を減らす」--これでは本末転倒です。
節税のつもりが手元のお金を損なってしまう事例は後を絶ちません。ここでは、代表的な3つの実例をご紹介します。
実録1
節税のつもりで修繕を繰り返した結果、お金が全く増えていなかった話。
「税金=損」と決めつけ、利益がでるたびに設備を新しくしたり、外壁を頻繁に塗り直したりする法人オーナー様の事例です。「どうせ税金を払うくらいなら、物件の価値を維持し、家賃の下落を防ぐためにも修繕したほうがいい」。そのようなお考えをお持ちでした。また「何年経ってもお金が積みあがらない」とおっしゃっていました。
修繕支出はある種「投資」です。リターンを求める必要があります。それは「家賃収入の維持・向上」というリターンであり、費用対効果の視点が欠かせません。その視点が抜け落ちると、次のような事態に陥ります。
※下表は、修繕した場合と修繕しなかった場合の5年間の手取りの概算比較表です。修繕しなかった場合は3年目から家賃収入が5%ダウンすると仮定しています。
一番右列の「5年累計」をご覧ください。
修繕ありの場合、修繕なしと比較して、家賃収入は+150万円、税金は△14万円。一見お得に見えます。ところが、肝心の手取りは56万円少ないのです。
なぜか。家賃を守る効果や節税効果よりも、修繕費用そのものの支出が上回っているからです。これでは手間と費用をかけて修繕する意味がありません。
上記のように費用対効果の薄い修繕は避けるべきであり、多額の修繕費がかかるケースでは「家賃を少し下げる」という選択肢のほうが、手元にお金が残るケースもあります。
念のため申し上げますが、修繕そのものを否定しているわけではありません。売却も見据えて修繕が必要かどうか、その可否や金額も含めて、「経営判断」が必要なのです。
もう一度言います。修繕支出は「投資」と考えるべきです。
株式投資をするとき、配当や値上がり益などリターンを求めますよね。修繕も全く同じです。修繕する以上、何らかの経済的リターンを数値で求める必要があります。そして、修繕と節税は切り離して考えてください。「節税したいから修繕する」という発想が、経営判断を狂わせます。
現在、このオーナー様は方針を大きく転換され、無駄な修繕は行わず「税金は必要経費」と割り切ることで、着実にお金を積み上げておられます。
修繕の費用対効果の判断に迷われたら、ぜひ一度ご相談ください。
実録2
節税目的の投資が「負債」に変わるとき
高額所得のサラリーマン大家が、節税目的で投資用マンションをフルローン(1,800万円)で購入した事例です。
当初は、毎月の収支がほぼトントンで、損益通算(給与所得と不動産所得の赤字を相殺)による節税効果があり手元キャッシュはプラスでした。しかし2年目以降、入居者の入れ替えや管理費の上昇により費用が膨らみ、収支自体がマイナスに転落し「持ち出し」の状態に陥りました。
不安を感じて5年目に売却を決意したものの、売却価格1,500万円に対しローン残債は1,600万円。売却時に100万円の自己負担が発生しました。結果、5年間の手取り累計は諸費用を含めると▲約250万円となり「結局、何のために投資していたのかわからない」そんな後悔だけが残りました。
そもそも、最も条件が良い初年度でさえ年間収支が約2万円というのは、事業としてあまりにも余裕がなさすぎます。相応のキャピタルゲインが見込めなければ、事業として成立しないことは最初から予測できたはずです。
また近年、金利は上昇傾向にあります。元利均等返済を利用している場合、「一定期間返済額がかわらない」こともあります。返済額は変わらないように見えても、内訳は利息ばかりになっており、元本が全く減っていないケースが増え、ローン残債が売却価格を上回るケースが増加してくるでしょう。
節税が主目的になることなく、まずは出口戦略も含めて「事業として成り立つかどうか」の判断が大事です。
出口戦略に迷われたら、ぜひ一度ご相談ください。
実録3
過剰な繰り延べがもたらすキャッシュの枯渇
「とにかく税金は払わない方がよい」という思いから、必要以上に生命保険などを活用し「税の繰り延べ」を多用した結果、キャッシュを損なった不動産事業者の事例です。
たしかに繰り延べを行えば帳簿上の利益は減り、目の前の税金は少なくなります。しかし、不動産売買・仲介業は毎年の収益が一定ではないため、資金繰りが苦しい時に保険料が払えず、返戻率が低いタイミングで泣く泣く解約することになりました。
さらに、「とにかく税金は払わない方がよい」という意識が先行すると、利益を棄損することになりがちで、銀行から見ると「儲かっていない会社」に映ってしまいます。結果、肝心なときに資金調達ができなくなる恐れもあります。今回のケースも資金調達が困難になり事業が立ち行かなくなりました。
不動産事業において、銀行融資は文字通り生命線です。税金を少なくしたい気持ちは理解できますが、一方で、しっかりと利益をだすことで銀行の信頼を得る必要もあります。この2つは相反します。
しかしよく考えて下さい。この節税は所詮「繰り延べ」にすぎません。であるならば、しっかり利益をだし、銀行の評価を勝ち取る方が大事ではないでしょうか?
※下表は、生命保険を活用した繰り延べの効果をシミュレーションした表です。わかりやすくするために全額損金、5年後に解約。返戻率90%としています。
表を端的にまとめると、こうなります。
「保険料1,000万円を払って、戻ってきたのは900万円。100万円は保険会社に消えた。その分だけ税金は20万円安くなったが、現金では80万円の損。節税のつもりが、お金が減っていた。」「保険料を毎年支払っていたので、4年間は手元のお金が半分になっていた。お金がないことによる機会損失が生じていた可能性もある。」
ここで、よく誤解される点を一つ補足します。「半損より全損のほうが節税効果は高い」「何割損金計上できるか」そこに注目が集まりがちです。しかし、損金算入できる割合がどうであれ、解約して受け取るときは原則その損金算入分が課税されます。結局、税金は「いってこい」の状態で何も変わりません。本当に見るべきは、税効果を無視した「シンプルな返戻率」です。
ただし、繰り延べそのものを否定しているわけではありません。
例えば、倒産防止共済は800万円預けて800万円が返戻される仕組み(4年経過後)で、キャッシュを減らすことなく、状況によっては「税率差」による節税の恩恵を受けることもできます。また事業が赤字の時に、解約することによって赤字を回避することも可能です。
退職金積立や死亡保障を目的とした長期の生命保険も、その主目的に付随して繰り延べ効果があるというだけで、リスクヘッジの観点からもこれらの生命保険の活用を検討する価値は十分にあるといえるでしょう。
問題なのは、節税そのものを目的にした「過度な繰り延べ」です。キャッシュの流出、機会損失、銀行信用力の低下、さまざまな弊害をもたらします。
過度な繰り延べ節税などにより出口戦略にお困りの事業者様は、ぜひ一度ご相談ください。
ここまでいくつかの事例をご紹介しましたが、根本にある問いは一つです。
「その節税は、本当にお金を増やすことにつながるのか?」
目の前の納税は誰でも避けたいものです。私も同じです。頭では理解していても「節税」という甘い罠に心が動いてしまうことがあります。
しかし、一度立ち止まって、頭をクリアにして考えていただきたいのです。
「その節税は、本当に意味があるのか?」と。
じっくり各表を見直してください。正しい数字を理解すれば、必ず正しい判断ができます。目先の税負担ではなく、長期的な視点でお金の流れを見極めてください。
お金を増やすための正しい優先順位
- 1. 売上を最大にすること
- 2. 経費を最小にすること
- 3. 正しい「節税」を行うこと
①②を突き詰めた結果として利益が生まれ、そこに正しい節税を組み合わせることで、手元にお金が残ります。お金を増やすことのために「節税」が優先順位の一番になってしまうと、利益を削る判断を招き、事業の土台が崩れていきます。順番が大事です。
正しい節税とは? 節税には「良い」「悪い」「繰り延べ」の3種類あり。
ここまで述べてきたとおり「節税」にもいろいろな節税があります。ここで少し整理してみましょう。
良い節税: 税制上の「控除」「非課税」「欠損金」「税率差」「選択」「評価差額」などを上手に活用し、確実にお金を残すこと。
悪い節税: 節税した結果、手元のお金が流出してしまうこと。
繰り延べ節税: タイミングをずらしているだけで、トータルの税負担は変わらない。
よく「税理士は税務署の味方だから、税金を多く払わせようとする」「節税の提案がない」と言われることがあります。しかし、その多くは誤解です。大半の税理士は、顧客のために少しでも税負担を軽くしたいと考えています。それでも安易な節税をお勧めしないのは、それが事業の本来の目的である「お金を増やすこと」を損なう恐れがあることを理解しているからです。
私は税理士業界のM&A実務等を通じて数多くの税理士事務所を見てきましたが、税のプロである税理士がいわゆる「4年落ちのベンツ購入節税」をしているのを見たことがありません。なぜなら、それが「お金を増やすこと」につながらないと、誰よりも理解しているからです。
弊所では、「お金を増やすこと」につながる正しい節税をわかりやすくお伝えすることをモットーとしています。